福岡の酒 基礎知識
福岡の日本酒
古くから日本酒造りが盛んだった福岡県には、数多くの酒蔵が存在します。「養生訓」の著者として有名な貝原益軒が編集した『筑前国続風土記』によると、元禄三年には造り酒屋が六一三軒あったとか。現在でもその数は全国でも5番目に多く、特に筑後川・矢部川流域にはたくさんの酒蔵が点在しています。
日本酒の生産が昔から盛んな理由の一つが、古くから稲作が行なわれてきた西日本有数の「米どころ」であること。そして、九州最大の河川である筑後川を筆頭に、矢部川、遠賀川といったー級河川からもたらされる「水どころ」であること。さらには雪が積もることがあるほど、冬場にぐっと冷え込む気候。これらの日本酒造りにおいて欠かすことができない環境が福岡には揃っているのです。
酒造りに適した酒造好適米の中でも、代表格として知られる「山田錦」。その山田錦の福岡県の生産量は全国有数です。さらに福岡県育成のオリジナル酒米「夢一献」や、九州での栽培に適した国育成の酒米「吟のさと」など多様な酒米の生産も盛んに行なわれています。特に昭和20年代から山田錦の生産に力を入れてきた糸島地域の酒米農家は福岡の酒造りを支えてきました。糸島地域には、豊かな水を湛える山々があり、昼夜の寒暖差が大きいため、山田錦の生産には最適なのです。また山田錦は粒が大きく背が高いため倒伏しやすいなど、生産管理が非常に難しく、厳しい基準をクリアして、酒米の部会から認められた農家しか山田錦作りを行なうことができません。「福岡の蔵元は自分の子供と向き合うように、その原料である酒米にもしっかり愛情を注いで向き合っています。」と語るのは糸島地域の酒米部会長。蔵元は田植えから収穫までの間「今年の品質はどうか」「目指す味にはどんな酒米が必要か」など、何度も酒米農家を訪ねて意見を交わしています。
酒造りの要となるのが 、酒蔵の看板を担う酒造りの指揮者である「杜氏」。目指すべき味があり、その味をつくるために必要な作業のタイミングをひとつひとつ見極めるのが杜氏という職人の仕事。かつて福岡には芥屋杜氏、筑後杜氏、三潴杜氏、柳川杜氏、久留米杜氏など数多くの杜氏集団が存在し、冬の農閑期になると杜氏は蔵元からその年の酒造りの全てを任されて請け負うのが通例でしたが、現在では蔵元やその子弟が杜氏として、自らの酒造りに携わる例が増えてきています。蔵元、杜氏は代々受け継がれてきた伝統を守りながらも、時代ごとにその技術を進化させ、酒造りに真摯な姿勢で向き合いながら、理想の味を追い求めています。